幕開け

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淡く、柔らかい春の日差し。 それにピッタリの優しいピアノの音色。 不思議だ。 同じピアノで弾いてるのに 同じ楽譜なのに 彼が弾くと、空気が変わる。 清らかに、澄んだ水みたいに ふわふわと、舞い落ちる羽みたいに あたたかい、ママの腕の中みたいに 優しく、愛しく、心に染み渡っていく。 大人たちは、彼を『天才』だと称した。 でもまだ幼くて、その意味を知らない私は、彼がピアノに愛されているのだと思った。 彼はピアノに選ばれたんだ だから、こんな音色が出せるんだ。 私には、出せない音色。
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