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 初夏の夜、空気は軽く爽(さわ)やかだった。  養成校を出発してから2時間、タツオの3組第1班は小高い丘の中腹にさしかかっていた。左右から常緑の葉の厚い木々が枝を伸ばし、人ひとりが通り抜けるのがやっとの狭い獣道だった。  先頭はテル、つぎがクニで、タツオは三番目。リーダーのジョージは全員の動きが確認できる最後尾を歩いている。テルが夜の木々の間に消えたところで物音が響いた。小枝が折れて、パンッと小口径の銃の発砲のような音がきこえた。続いて、緊張したテルの怒鳴り声が届く。 「敵襲!」  敵からの襲撃? これはただの夜間行軍の訓練のはずだった。戦闘や格闘の訓練などきいていない。クニはテルが消えた夜の林のなかに飛びこんでいく。ジョージが叫んだ。 「谷(たに)、敵の状況を報告せよ」  テルでもクニでもない男の叫び声がきこえた。痛みに苦しんでいるような声だ。テルから返事はなかった。
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