ねえ、君殺人鬼でしょ?

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ねえ、君殺人鬼でしょ?

 僕の後ろからそう話しかける女性の声が聞こえた。  帰りのラッシュまで少し間があり人もまばらな夕方の駅のホーム。  当然、僕は自分の事だなんて思わなかったし、僕に話しかけられたとも思わなかったし、冒険心も、不必要な興味も持たない16歳で、自分から見てもちょっと老成している性格だなと認めてしまっている節があるので、少し頭がかわいそうな人が駅に居るのは良くあること程度にしか思わず、当然僕は関係ないものとして振り向かなかった。  「ねぇねぇ!君だってば、そこの○×高校の制服着て上からこげ茶のコートと白いマフラーしててナイキのリュック右肩にかけながら右手で「されど罪人は竜と踊る」の新刊読んでて財布の中身が多分3200円くらいしか無いっぽい階段下りようとしてる冴えないそこの165センチ50キロくらいの君!」  条件は当てはまる。僕は○×高校の制服の上にコートをはおり白いマフラーをしてナイキのリュックもかけているし小説も読んでるし、しかも「されど罪人は竜と踊る」の新刊だ。  ついでに言うならば財布の中身も3251円だ、そして、絶望的なまでに冴えない。果てしなく条件に近い。  が、 殺人鬼などと言われながら呼び止められるなんて心外だ。  きっと僕のことでは無いだろう。心の平穏がそうであれと全力で神に祈ってる。  ・・・周りの人が僕を見ている。  どうやら後ろから感じる視線は気のせいではないらしい。  よくいる日本人から御多分に漏れず、目立ちたいとは思わない性格の僕ゆえ、そのまま足早に階段を下りようとしたその瞬間、僕は腕を引っ張られた。  神が居ないのは知っている。  ・・・仕方なく僕は振り向いた。
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