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みんなの熱意が功を奏してか竹虎が言うよりもずっと早く、三週間もするとチアダンス同好会メンバーの基礎的技量は一人前になっていた。
土曜日の練習が終わって、晶子と朋美はスタジオ近くの喫茶店でお茶をした。喫茶店の中はクリスマスツリーやイルミネーションが飾られていてクリスマスソングも流れていた。
「もうすぐクリスマスね。晶子は桜田先生へのプレゼント決めたの?」
テーブル越しに向かい合う朋美のストレートな質問に晶子は戸惑った。
「エーッ。わたし、何にも考えていないわ。それに、先生とはそんな仲じゃないし…」
「馬鹿ね、晶子。もっと自分に素直にならなくちゃだめよ」
「自分に素直って?」
晶子は店員が運んできたケーキセットのコーヒーカップを両手で包むようにして、ブラックで一口飲んだ。
「桜田先生に晶子が好意を持っているということを認めなさいってことよ。そうすれば、このクリスマスの雰囲気の中で、じっとしてはいられない筈よ」
確かに、店内だけでなく窓の外の商店街も飾りつけはクリスマス一色になっていた。
「わたし、先生のこと好きだけど、プレゼントまではまだ…」
「まだ、まだって言ってたら、晶子、プレゼント渡すときにはあなたお婆さんになってるわよ」
「ハハ、そんなことないって。ところで、朋美はどうなの?クリスマスはどうするの?」
突然、話の矛先を自分に向けられた朋美はホークでモンブランに乗っている栗をつついた。
「わたし?わたしはいつもと同じよ。君絵の手料理でクリスマスを祝うの。翔とか呼んでも良いけど。わたし、クリスマスだけは静かに過ごすのが好きなの」
「そう。そういうのが本当の聖夜なのかもしれないわね」
三十分ほどで喫茶店を切り上げ朋美と別れた晶子は、夕暮れのバス通りを歩きながら携帯を取り出した。純一から貰った携帯には彼の電話番号が登録されていた。晶子は思い切ってその番号をダイヤルした。二度目のコール音のときに、純一が出た。
「晶子さん。どうかしましたか?」
「あっ、いえ。先生、わたしもう一度母の絵に会いたいと思ってるんですが…」
「そうですか。もちろん、いつでも良いですよ。そういえば明日は日曜日ですね、明日来られますか?」
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