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「はい、わたしは午前中チアダンスの練習があるので、それが終わったら先生のお宅に伺うようにします」
「そうですか、わかりました。よかったらランチでも一緒にしましょう。ところで、わたしの家の場所は分りますか?」
「そう言われてみれば、よく分かりません」
純一は彼の邸宅の住所と最寄りの地下鉄の駅を晶子に教えた。純一との話を終えて携帯を仕舞いながら晶子は顔のほてりや胸の動悸を感じた。そして、自然に笑みがこぼれ、小さくガッツポーズをした。
翌日の正午過ぎに晶子は桜田邸に到着した。改めて正面から見ると、それは大きな洋館づくりのお邸だった。大きな門の前でインターホンから晶子の名を告げると、鉄格子の門が自動的に開いた。晶子が前庭の小道を歩いてお邸の玄関口に達したとき、ドアが開いた。
この前のメイド、米倉幸子が出て晶子に会釈した。
「旦那様がお待ちです。どうぞお入りください、お嬢様」
「あっ、ありがとうございます」
晶子は幸子の案内で、広いエントランスを通って奥の白いらせん階段を上がり二階の応接室に通された。部屋の真ん中にある大きな黒革のソファーに座って待っていると、スーツ姿の純一が入ってきた。
「やあ、よく来てくれました。外は寒いでしょう」
そう言いながら、純一はコーヒーテーブルを挟んで晶子に向かい合うかたちでソファーに深く座り、長い脚を組んだ。
「はい、もうすぐクリスマスですから」
晶子は制服姿で、ソファーの横に背負い鞄を置いて座っていた。
「そういえば、電話ではあなたがチアダンスの練習をしていると伺いましたが」
そう言って、純一は眼を細めた。
「ああ、それは学校に同好会ができて、野球部の応援のためにわたしもチアガールをやることになったんです」
「ほう、チアガールを…。以前は、萌喫茶店で初音ミクの衣装を着ていましたね」
晶子は萌喫茶「ミク」に突然現れた純一を見て狼狽したときのことを思い出して、恥ずかしくなった。
「あっ、そ、それは…。学校の行事なのでいろんなことがあるんです」
「そうですか。でもチアガールは練習が大変でしょう」
「そうですね。ほとんど毎日、練習がありますから」
その時、ドアにノックがあって、幸子が食事の用意ができたことを純一に告げた。
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