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食堂は一階にあった。レースの美しいカーテンで覆われた大きな窓からは冬支度をした木々が裸の枝を曇天に向かって広げる寒々とした風景が伺われた。しかし、食堂の中は春のように暖かく、大きなテーブルに次々と運ばれるフルコースのランチは晶子に至福のひと時を与えた。純一とのたわいのない会話も晶子には楽しくて仕方がなかった。
食事を終えて、大きくて豪華な寝室にある晶子の母、カスミの肖像画を純一とふたりで眺めていた時だった。ドアにノックがあって、幸子が来客を告げた。純一は晶子をひとり残して部屋を後にした。晶子は奥の洗面所へ行って歯を磨いたり服装のチェックをして、再び部屋に戻ってベッドに座り、母の肖像画を観た。
絵を見つめているうちにふと、純一と母との関係を怪しむ気持ちが沸き起こってきた。
(先生はお母さんのことをどう思ってるのかな?わたしは先生にとってただの子供で、本当はお母さんのことを愛してるのかな?)
そんなことを疑う自分に何か不吉なものを感じ、晶子は自己嫌悪した。しかし、その疑念を完全に打ち消すことはできなかった。
しばらくすると、ドアのノックがあって純一が部屋に戻ってきた。
「晶子さん、僕は急用ができてしばらくしたら出かけなければなりません。あなたはどうしますか?」
「わたしは、わたしはもう少し先生と一緒にいたいです」
晶子は思わず口に出た自分の大胆な言葉に内心驚いた。しかし、一度口に出した言葉をもう取りかえすことはできなかった。晶子はそんな自分の頬が赤く染まるの感じながらうつむいてしまった。
「そうですか。それなら、わたしと一緒にその急用先に行きましょう」
「良いんですか?わたしも一緒に行って?」
晶子はベッドから立ち上がって純一の切れ長の美しい目を見上げた。
「かまいませんよ。むしろその方が良いかもしれません。ただし、晶子さんは僕の助手として同席することになりますよ。良いですね」
「はい、よく分かりませんが、わかりました」
「ハッハハ、それじゃあ、メイドの幸子を呼びますから支度をしてください。その制服姿では助手になりませんからね」
晶子は幸子が用意したスーツに着替え、さらに薄化粧もし伊達眼鏡もつけて純一と一緒に黒い高級車に乗り込んだ。車は高速道路に入り、郊外に向かっていた。
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