第14話 ロザリナの首飾り

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「先生、急用先って、遠いんですか?」  晶子は運転席の後部座席にいる純一の隣に並んで座っていた。 「いま高速に入っていますから、あと小一時間くらいでしょう」 「どんな用件で行かれるんですか?」 「それは運転手さんに聞いてみましょう、ねえ、齋藤さん」  純一に声を掛けられた初老の齋藤徹が、バックミラーをチラリと見ながら頷いた。 「はい、先生。まことにお忙しい中をご足労いただきありがとうございます。実は、わたしの主人の山本洋一郎さまが急な御用ということで執事のわたしが先生をお迎えに参ったしだいです」 「山本さんという方は、さっき一緒に見ていた絵をわたしに譲ってくれた方なんですよ、晶子さん」 「あっ。そうだったんですか」 「さようでございます。先生とわたしの主人とは官展の特別展覧会でお会いしてからのお付き合いでございます。先生は不思議な力をお持ちだということを存じ上げてから、わたしの主人は本当に先生のことを頼りになさっているのです」 「先生の不思議な力?」 「ハハハ、私の霊視能力のことですよ」 「そうでございます。心霊学者の桜田先生が霊を見ることができるということを知ってからは主人の先生に対する信頼がとても大きなものになりました」 「それで急な御用というのは何ですか?」  晶子は今までにない不可思議な事件に巻き込まれる予感がした。 「はい、それは主人が詳しくご説明すると思いますが、悪霊に関係しているように伺っております」 「悪霊?」 「晶子さん、それは何らかの因縁でこの世にとどまった霊のうち人間や物に取りつき悪さをする者のことですよ」 「それで、先生が呼ばれたんですね」  同時に、自分も霊視できる晶子はそれで純一が助手として同行させたのだと知った。 「うむ。山本さんにあってお話を伺わないと何とも言えませんが、何か大変なことが起こっているような気がしています」  そう話しているうちに、車は郊外にある山本邸に到着した。山本邸は幾重にも立ち並ぶ樹木に囲まれ、森の一部を切り開いて造成された広大な敷地を有していた。執事の齋藤は車を玄関前に止めて、純一と晶子を豪邸の中へ案内した。  齋藤の案内で通された二階の応接室で純一と晶子がしばらく談笑していると、再び齋藤が現れて洋一郎の書斎へと案内した。異国情緒のある落ち着いた内装の書斎は二階の奥にあった。
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