第14話 ロザリナの首飾り

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 五十歳台半ばとみられる端正な顔立ちの山本洋一郎は壁側に置かれた大きな机の後ろにある黒革の椅子に座って二人を待っていた。 「おう、桜田先生よくいらっしゃいました。それから、助手の朝倉晶子さんもよくいらっしゃいました」  そう言いながら洋一郎は椅子から立ち上がって、机の前の黒革の応接セットに二人を招き、自らも机を背にしてソファーに座った。齋藤は飲み物を用意するため下がった。部屋全体は薄暗く書斎の奥は出窓になっており、大きな杉の木の枝の間から微かな午後の光が差し込んでいた。 「早速ですが、ご用件を伺いましょう」  純一はコーヒーテーブル越しに向かい合う洋一郎の様子が尋常でないことを感じて、単刀直入に尋ねた。 「桜田さん、実は大変なことが起こってしまいました。悪霊の封印が失われてしまったのです」 「悪霊の封印?」 「そうです。わたしは各国の絵画や古い美術品を集めるのが趣味で、いままで多くの作品を集めてきました。その中に、悪霊が封印されているという『ロザリナの首飾り』があります。ガラスの宝石箱に入っていてその箱自体が封印されているのです。しかし、その封印が古くてわたしはずっと気になっていたのですが、やっと時間が空いたので新しいものに取り換えようと先日わたしはバチカンのイグアナ大司教のところで封印のお札と聖水をいただいてきました。そして、先ほどその宝石箱を取り出したところいつの間にかすでに封印が失われていたのです」  その時、執事の齋藤がコーヒーを運んできて、コーヒーテーブルに並べると洋一郎と会釈を交わしてまた部屋を出て行った。晶子はコーヒーにミルクを注いで一口飲んだ。上品な香りのブルーマウンテンだった。 「その宝石箱とロザリナの首飾りを見せて頂けますか?」  純一もブラックでコーヒーを一口飲んで、洋一郎に言った。 「はい、いま執事の齋藤に持ってくるように命じています」  洋一郎はそう言ってコーヒーにコーヒー砂糖をスプーンで2杯入れて、そのまますすった。しばらくして、書斎のドアにノックがあり齋藤が布でくるんだものを大切そうに運んできて、応接セットのコーヒーテーブルの上に置いた。そして洋一郎がその布包みを開いた。そこには古いガラス製の宝石箱があり、大粒の真っ赤なルビーを中心にダイヤモンドで見事に装飾された首飾りが入っていた。
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