木菟

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次の日――、 冷静な頭で考えた。 電話だけでもしてみようか? 仕事内容を詳しく聞いてから判断してもいいじゃないか。 私は思い切って、担当者と書かれた番号に電話した。 「石山ナルミさんですか?ああ、例の手紙を読まれたのですね。不審に思われても、仕方ありません。」 電話の相手は、落ち着いた中年くらいの男性だった。 「回りくどいことをしたと思いますが、実は私、貴女のお父様の、昔の友人でして。」 「私に父はいません。」 きっぱりと言った。 いや、もちろん私にだって、父親はいるのだろう。しかし、私が生まれた時に、既に父はいなかった。 母親を捨てて、行方を眩ました。 …そう聞いている。 なぜ、今更父の話を持ち出すのか。 新手の詐欺か? 不快だ…父親のいない苦労を思い出すと、腹の底から怒りが込み上げてくる。 「何も知らないんですね。…貴女のお父様はね、頭の狂った男に殺されたのです。貴女が生まれてすぐだったかな。」 …はあ!?殺された!? 「馬鹿にしないで!!そんなの、信じられないわ!!…大体、父とバイトと何の関係があるんです!?」 「そこですが、お嬢さん。実は、貴女の学校の写真展で、貴女の作品を拝見させていただきました。…知っていますか?貴女のお父様も、分野は違えど、芸術家です。私はね、貴女の身体の中にも、お父上と同じ血が流れているのだと、しみじみ感じました。」 私は、生まれて初めて、赤の他人に自分の作品を褒められ、悪い気がしなかった。
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