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『町が死んでいる』とは言い得て妙である。
深い霧の中、街道を歩く玉藻フヒトの脳内にそんな言葉がよぎった。
現在、彼と彼のパートナーである幽霊は霧に囲まれ右も左も分からない状況である。
しかも、【生きている】人間に一人たりとも出会っていないのだ。死んでいたり死んでいるのに動いていたりなモノには遭遇したのだが、それらは人間の形をした何かである。
「ヨモツさん、これかなりマズくないですかね?」
フヒトは額に汗を浮かばせながら隣で浮遊する幽霊もといパートナーのヨモツに聞く。
「あら、具体的にどうピンチなのかしら?」
死者ゆえの余裕か、死霊のヨモツは焦るフヒトを弄ぶようにかれの耳元で囁いた。
彼女は、白い浴衣に三角天冠を身につけ、更に目を引くのが艶やかな黒の髪と扇情的で全てを見透かしているような瞳が特徴的な幽霊である。
幽霊なのだが、実体化できたり、死者の国では実力者だったりと色々と謎の多い存在なのだ。
「何がって、ヨモツさん分かっててそんなこと言うんだからさぁ」
「口に出さないと分からないわよ」
「はいはい、じゃあ説明しますとですね。単純に迷いました、迷子です、はい」
「あらあらフヒトぉその年で迷子になるとは情けない」
「しょうがないじゃないですか!こんな地図もコンパスも携帯も使えやしない所なんですから!」
「ん~それもそうね、じゃあ助けてあげるわ」
やっとその気になったかとため息をつく不比等であった。
「でも、取り敢えず眼前の屍たちを掃除してからよ」
ヨモツの言うとおり、目の前には動く屍がえっちらと此方に矛を向けて近づいて来ていた。
「えぇ、殺りますからヨモツさんも手伝って下さいよ」
「勿論よ。あなたにとっては戦闘かもしれないけど、私にとってこういうのは食事なんだから」
ヨモツは何処からか大きな鉄扇を取り出し、フヒトは手持ちの札を二丁の銃に変えて戦いに出た。
(そもそも何でこんな事になったんだっけなぁ……)
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