霧の町

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そんな事の始まりを思い出しているフヒトの背後から5匹の屍犬が駆けてきた。 ヤツらは無論、敵である。およそフヒトに害を及ぼそうとしているのだが、彼は焦りはしない。 「銀華、出番だ」 『承知した』 フヒトの一声で彼の持つ、小さな鳥居から白い狐の耳と七本の尻尾を持つ美少女が大きな直剣を振るって出てきた。 彼女の名は銀華、不比等の式であり、ボディガードである。 とある小さな村で実の兄を待ち続けていた時に不比等と出会い、待つ事を辞めて探し出すことを決意した狐耳系のかわいい妖怪少女である。 銀華は、手にする大剣を鳥の羽の如く軽々と振るって屍犬を一撃の元に粉砕した。 「ふっ、犬には負けない……」 犬程度の脅威などものともしない程に彼女は強いのである。 銀華が決めている最中、フヒトは手にした二丁の拳銃『パイツァー・ツェリスカ』と『デザートイーグル』をゆったりと接近する屍に撃ち放していた。 弾は屍を無残に千切り飛ばし、血飛沫に変えていた。 この銃は二丁とも大きな反動を伴う銃であるが、その分威力は大きい。 現に、怪異を相手にするならこれくらいの火力はないと心もとない。 フヒト自身も身体強化系統の術を自分にかけて反動を軽減させてやっとこさ使っている。 「さてと、後はヨモツさんはと………いや、大丈夫か」 フヒトがヨモツに振り返ってみると、地面から黒い無数の手が生え渡り屍たちを引きちぎっている光景があった。 その中でヨモツはまだ鮮度のある屍を雑巾のように絞り上げ、その血を飲んでいた。 しかし、テイストは芳しくなく、ヨモツは不服げに眉を歪ませている。 「んぅ…やっぱり不比等さんの血が一番美味しいわぁ…こんなんじゃお腹は空いたままだし……そうだ、背後から襲えばあるいは……」 「ヨモツさん!そんな物騒な計画を建てるんじゃない!」 「ヨモツ、怖い…」 そう言い残すと銀華は何時ものことだと呆れ返り、早々に鳥居のアクセサリーに戻って行った。 「はぁ、そんなに飲みたいなら言ってよ。ヨモツさん燃費はあまり良く無い方なんだしさ」 「え?本当?今までは夜中にフヒトさんの霊力を吸ってたんだけどあれじゃあ物足りなくて」 「善処はする……」 とフヒトはそっぽを向きながら答えた。 そんな、彼らが何故このような死んだ町を彷徨っているのか…… それは時を数時間前に遡ってみる必要がある。
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