霧の町

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遡ること数時間前のことである。 フヒトたちは陰陽庁の上層部から届いた依頼の内容通りに指名手配犯を捕まえていた。この指名手配犯は以前、陰陽庁の管轄下にある怪異の刑務所に襲撃をかけたグループの一味であるが、しぶとい事に仲間の情報を話さない上に、組織の構成まで話さないのである。 陰陽庁をはじめとする政府関係者はこの襲撃事件は解決した、とウソの表明するくらい焦りの見えるほど沈静化を図りたい案件であり、しかもその核となる組織の情報ですら霞と掴めてない。 なので、陰陽庁としては今まで以上に職員を動かすことしか出来ないのである。 そんな真っ只中、ある事件が起きた。 「はぁ、町が消えたんですか。ってそれってかなりヤバイんじゃないんですかね、多々良局長」 『あぁそうだ、この前の襲撃事件なんかよりもだ。まぁ、正確に言えば村が怪異に喰われた。』 町、もとい地図上では村なのだが、そこが怪異に食われてしまうという何とも荒唐無稽な事件である。 そんな事件をフヒトはある日、以前世話になっていた陰陽庁の人間である多々良阿弥から電話越しに伝えられた。彼女は陰陽庁地方部局に在籍する人間であり、フヒトの元上司に当たるにんげんである。 「いや、そんな大きな案件なんか世間に出回って無いですがね…まさか………」 『そのまさかだ、この前の襲撃事件といいきな臭い事件であることには変わりないな』 女性にしては声の低い多々良であるが、今回は更に声色が低くなった。 「で、わざわざ電話してまで伝えたんですから何か僕に用事があるんですよね」 『その通りだ、まぁ、隠しながら言っても仕方が無い。フヒトお前この事件を解決してこい、と言うかこの怪異を何とかしてこい』 歯に絹被せぬというかオブラートというかその類の言葉を知らないのではないと思うくらい直接的にモノを言う。 フヒトは当然、嫌だなぁ、と思いつつもどうせ断ってもあの手この手でやらせてくるんだからと観念し「分かりました」の承諾の意を伝えた。 「で、どんな怪異でなんです?それに今までに何の手も打ってないなんて無いですよね?」 『蜃(しん)という怪異を知っているか?』 「えぇ、蜃気楼の元ネタにもなってる怪異ですよね」
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