霧の町

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『その通りだ、今回はその蜃に喰われた。しかも、そこの土地ごとだ』 蜃とは、貝の形をした怪異であり、非常に巨大な怪異である。 蜃の恐ろしいとこは、町ごとその土地にいる生物を食べてしまい、更に食べてしまった土地をルアーのように自分の体内に形成し、人間や動物を餌に獲物を誘い込む怪異である。 そのルアーのように精巧に作られた幻の土地を蜃気楼と呼ぶようになった。 『この蜃を倒すには、ヤツの体内に入り中から崩す他ない。だからヤツのルアーにワザと引っかかるように10人ほど陰陽庁の退魔師やフリーの退魔師を送ったのだが……』 「まさか……」 『一人も帰ってこない、あぁそうそう、中に生存者がまだいるとの情報が入ったな。まぁ、大半は飲み込まれた際に死んだろうし、運がいいんだが悪いんだが』 「たしか、蜃は食べた人間の魂をその体内に縛っておくんですよね?」 『ん?そうだったな確か』 「それは、流石に不憫でしょう……それじゃあ可哀想だ」 そのセリフを聞いた後、多々良は少し驚いたように告げた。 『おや、これは驚いた。何があったか知らないがお前の口からそんな言葉が出るとはな』 「な、なんですか!失礼ですね!」 『いや、いい傾向だよ。フフ、人間らしくなってきたじゃないか』 「いや、もともと人間ですよ」 『ふっ、まぁ、頼んだよフヒト君』 と、多々良は電話を切った。フヒトは相変わらず変な人だ、と思いながら携帯を切り、蜃に突入する準備を整え始めた。 「フヒトさぁ~ん、電話越しに女の声が聞こえたんだけど?どういうことかしら?」 そんな彼の後ろには腕を組んで立っているヨモツ佇んでいた。 「ん、多々良局長だよ。懐かしいだろ?それに新しい仕事も入ったからな」 「ふーん、例の襲撃事件と関連性のある事件かしら?」 「それは言い切れんが、取り敢えず次の標的は蜃だ」 蜃という言葉を聞いたヨモツは、急に目の色を好物が目の前にある猛獣の様な色に変えた。 「お、おいどうしたんだよ」 「フヒトォ、また随分食べ応えのある獲物ねぇ」 ヨモツは「酒蒸しとかもオツよねぇ~」とか言いながらフラフラとフヒトの側を漂うのであった。
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