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「あの日はちょうど夜勤明けの日でした。
病院からすぐ、保育園に預けていた娘を迎えに…。
…一瞬だったんです。
ほんの少し、手を離したら…
娘が、吸い込まれるように車道へ…。
そこに、スピード違反のトラックが来て…っ」
彼女の声には既に涙が混じっていた。
「私は、動けませんでした…っ
何が起こってるのかさえ、分からなくって…
その時、ご主人が…辰五郎さんが…っ」
鼻を啜る音が聞こえる。
彼女の下の畳はぼたぼたと垂れる雫で濡れていた。
「…主人は、お節介を焼くのが好きな人でした。
困ってる人を見るのが嫌なんですって。
きっと今回も、貴女の困った顔が見たくなかったんだと思いますよ」
母は穏やかに微笑みかける。
それに応えるように、少しだけ彼女の顔が上がった。
「"ごめんなさい"より、"ありがとう"と言ってやって下さい。
その方が、主人も喜びますので」
彼女はその言葉に 物凄い量の涙を流した。
「本当に゙、あ゙りがどゔござい゙まじだ…っ!!」
濁点だらけの声とともに、彼女はもう1度崩れるように頭を下げる。
その反動か、背中で眠っていた子が目を覚ました。
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