殺人と妹と魔法少女と機関銃と死体

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僕は朦朧とする意識の中で暢気に聴いていた。妹の声を。なんでだろう?おかしいな。だって、致死量の青酸カリを盛られて苦しくなって、息が出来なくなって五分は経つのに、完全に意識を失ってない。 どうせなら青酸ガスを直接吸わせてくれた方が、すぐ死ねただろうに。 青酸カリはサスペンスみたいに、すぐに苦しくなって死んだりしない。ヘモグロビンに青酸が酸素よりも強力に結びつくことで、結果的に酸素と二酸化炭素のガス交換が出来なくなり、簡単に言うと窒息になって死に至る。 青酸カリはすぐに死ねる毒だと、サスペンスを信じて服毒自殺をすると、じわじわと死を味わわされることになる。嗚呼、せめて吐ければ少しは楽に、と言うより青酸カリも吐けるかも。実際、青酸カリごと吐いて助かった例があるくらいだし。 苦しいのに、死にかけてるのに、暢気にそんなことを考えながらうっすらと目を開け妹を見、妹の声を聴く。 「そうよ、そうよ!そうなんだよ!あんたは誰!?あんたは誰なの!?私にお兄ちゃんなんていなかった!七歳までお兄ちゃんなんていなかった!ある日突然、一人っ子の私の前に、いるはずのないお兄ちゃんが現れた!どうやって私達を騙したの!?どうやって家族のフリをしてきたの!?どうやって、家族に紛れ込んだの!?青酸カリなんかで死なないくせに、この化物!」 殴る。殴る。殴ってくる。血が出てるのに、痛みを感じない。死にかけているからか? 死ぬならその方がいい。妹を苦しませずに済む。僕が死ねばいいんだ。 その方がいい。僕がいなくなればいいんだ。そしたらきっと上手くいく。 でもなんでだろう。さっきから君の名前が思い出せないんだ。
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