第1話

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「光(ヒカル)ッ……! おまえ俺のパンツ知らねー?」 ノックなどオシャンティなもの、ある訳無い。 そうここ、安野(アンノ)家では……。 次男である響(ヒビキ)兄は、 冬の早朝、 妹の布団をひらりと奪う。 「……さみーょ……」 だからってすぐ起きれない。 私は自慢する程の低血圧だ。 尺取り虫みたいに体を曲げて、 冷たい朝の空気から逃げる。 「……るせっ、 おまえが履いてる事ぐらい百も承知なんだよっ」 ジャージのズボンをぐいと下げられ、 「……ほらな。 俺のお気にちゃん発見。 誘拐犯人はおまえしかいねー。 さあ返せっ!」 ……そして更に更に…… ……兄妹とは言えさすがに不味い……けど……どーでもいい。 あと五分……寝るの希望。 下半身すっぽんぽん、 の私はもう一度お布団をかけてもらった。 「おっし!これで落ち着いたっ。 やっぱ月曜はこのパンツに限る。 ハハッ、じゃーなっ」 嵐のような男が 階段を激しくかけ降りて、 校内放送のごとく秩序のある 声が私を呼ぶ。 「ヒーちゃん、もう起きて。 ごはんだよ」 ……そう。 この声が私は好き。 お弁当も毎日。 心配も毎日。 昴(スバル)兄は最高ランク。
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