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「……またなの?
僕はヒーちゃんとヒビキのパンツまで管理してないんだから、
ちゃんとしないと」
似合わない制服を着てキッチンに行くと、
お弁当を詰めている昴兄の背中。
冷凍食品は一切使わない。
赤、黄、緑のお弁当ルールは
破った事がない。
長身で、テレビに出る俳優なんかよりずっとカッコ良くて、
そして何より、最上級に私に優しい。
「あいつが悪いんだよ。
私の洗濯物に混じってた」
そう言うと昴兄が振り返る。
困ったような顔で、
それでいてどこか慈しむような。
「ヒーちゃんさ、
もうそろそろヒビキと同じトランクス履くのやめたら?
その、もう17歳だし、
友達に笑われない?」
「……わ……らわれてねーよ。
最近じゃさ、女子もそう言う形の履くし」
「その言葉遣いもだよ。
そろそろ……ね。
僕が放置し過ぎたのかな」
ため息をつき、クルリとまた背中を向ける。
私と昴兄は歳が10も離れている。
私と2つしか変わらない響兄と比べると、神様みたいに穏やかだ。
私が小学校1年生の時、
響兄が町内の商店街のくじ引きで
、一等の温泉旅行を当てた。
2名様分しかなく、
新婚旅行に行ってなかった両親に、響兄がプレゼント。そして当時16歳だった昴兄はこう言った。
『たった一泊でしょ?
行っておいでよ。
ヒビキとヒーちゃんは僕が面倒見るから大丈夫』
そしてそれが、
本当にそれから先もずっとそうなるなんて……
誰が予想していただろう。
指定された旅行の日付の頃、
台風が近づいているとニュースでやっていた。
でも今までちゃんと台風なんて
来た試しがない。
いつも台風はルートを反らし、
直撃と予想の日には快晴が。
だから両親は旅行に出掛けた。
なのにこの時の台風は
気まぐれじゃなかった。
せっかくだからと雨の中、
露天風呂に向かった両親。
少し離れた旅館に帰る途中、
崖崩れの下敷きになった。
自分の家族が土に埋まって捜索されなきゃいけないなんて。
そうなる確率は一体どれぐらいの
ものなんだ……?
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