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まだ幼い妹から両親を奪ってしまった。
誰のせいでもないのに、
そんな行く宛のない罪の意識を、
昴兄も、
それからあんな風な響兄ですら
まだ抱えている。
でも私たちは生きていかねばならない。
父方の祖父母は離婚していたので、
母方の婆ちゃんが田舎から
ここまで出て来てくれた。
爺ちゃんは早くに死んでいたし、
5年前、その婆ちゃんも脳溢血で倒れて亡くなるまでこの家で。
そこからはずっと3人で。
お母さんの代わりを婆ちゃん、
そのまた代わりを昴兄が。
かと言え昴兄とはほとんどの時間過ごせなかった。
保険金は出たが、
こんな事態を予想しなかってか
その額は3人分の学費にはほど遠く、
高校卒業するまでの時間は
引越し屋のアルバイト。
就職してからも仕事が忙しく、
朝の僅かな時間とお弁当が、
私と昴兄の唯一の交流ポイントだ。
「言葉…づかいねぇ。
しゃーないしゃーない。
響と一緒におったらまともな言葉喋れませんねん。
かまへんやないですかあ」
言うと昴兄がぷっとふきだす。
「なんだその変な関西弁。
婆ちゃんが、そして僕がもう少し厳しくすりゃ良かったな」
昴兄の長い指がきちんとあるべき場所にお弁当の中身を詰めていく。
テーブルには私用のきちんとした
和食の朝御飯。
「婆ちゃんは元気だったら何でもいいって人だったからな。
しゃーおまへんわ」
言いながらお味噌汁を一口飲んだ。
今日も良い味。
どこそこの料亭ではきっと飲めない、最高の味だ。
「……ったく。心配だよ。
もうそろそろボーイフレンドとか好きな人ぐらいいてもいんじゃない?」
同じようにテーブルにつき、
昴兄は私をマジマジと見つめた。
昴兄と響兄は両親の良いとこ取りだ。
……なんで私だけ完全に父親に似てしまったんだろう。
……ま、良い親父だったらしいけど。
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