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「……吟味中だよ……」
「……ほう。吟味。
長い吟味だね。
ま、いーけど」
笑いながら昴兄は、
朝食もそこそこに席を立った。
「弁当と戸締まり、
忘れないでね。
僕ももう出るから。
ヒビキも今日は仕事終わるの遅いって言ってたし、冷蔵庫に晩御飯、作ってるから」
昴兄は手際が良い。
お弁当と同じ食材を使って、
晩御飯まで用意してしまう。
2人とも大学に行くのを断念したのに、私には大学に行けって言う。
けど卒業したら私は働きたい。
学校なんて場所、まっぴらごめんだ。
……と言う事を口には出せなかった。
「……うん。わかった。
いつもありがとな。昴」
「なに?気持ち悪いな。
ヒーちゃんにご飯を作るの、
僕の趣味ですから。
あ、ヒビキには義務かな」
カラカラと笑いながら、
昴兄はスーツのジャケットに腕を通した。
街の中くらいの印刷会社の営業マン。
従業員が少ないから、帰りも遅い。
昴兄が出て行くと、
残りのご飯を食べて時計を見上げた。
もう行かなきゃ……遅刻しちゃうな。
ここの制服はかわいい。
ショート丈の紺ブレザーにフレアスカート。
胸元には赤いチェックの、
ふわりとした大きなリボンがついている。
響兄とパンツを共有している私には似合わないし、
似合おうとも思わなかった。
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