第1話

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「……どうかしましたか?」 「……いやね、この子が私が痴漢をしたなどと…… 君も思うでしょ? どうせ触るんだったらもう少しかわいい子を触るだろ」 「だから違うって言ってんだろっ!こいつが触ってたのは」 「まあまあまあまあ、ちょっと落ち着いて下さい」 駅員が途中でそう言って、 「君ね、無実の人間に罪をきせるなんて冤罪だよ、冤罪っ」 親父の顔が真っ赤になる。 「もうすこぶる気分が悪いっ、 ここからタクシーで行かせてもらう。 じゃあ」 親父は腕を振り払い、 アッと言う間もなく改札を抜ける。 駅員は止めなかった。 こいつの頭の中ではきっと、 触るなら……の箇所がリピートされてるに違いない。 「すいま……せん。 あのお客様を一応覚えておいて、 また次に現行犯なら」 「……うっせ。うすらバカ。 ちゃんと仕事しろっ」 捨て台詞を残すと、改札へ。 苛立ちながら定期を通し、 前を歩く天敵を発見。 同じクラスで学校1の人気者、 何の因果か隣の席、 の、広田 日向(ヒロタ ヒュウガ)は 私に気づき、 嫌味な程均整のとれた笑顔でニッコリ笑うと、呑気に声をかけてきた。 「グッモーニン、安野。 朝から威勢がいいな」 「……うっせ。 おまえと並ぶとまた女どもがピーチクうるせーから先行くわ。 じゃあな」 ……ったく女はどうしてああ言うのが好きなのか。 昴兄や響兄とは元来持ってるものが違う奴。 ローファーの爪先を蹴りあげて、 朝靄の中を突っ切った。
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