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「……どうかしましたか?」
「……いやね、この子が私が痴漢をしたなどと……
君も思うでしょ?
どうせ触るんだったらもう少しかわいい子を触るだろ」
「だから違うって言ってんだろっ!こいつが触ってたのは」
「まあまあまあまあ、ちょっと落ち着いて下さい」
駅員が途中でそう言って、
「君ね、無実の人間に罪をきせるなんて冤罪だよ、冤罪っ」
親父の顔が真っ赤になる。
「もうすこぶる気分が悪いっ、
ここからタクシーで行かせてもらう。
じゃあ」
親父は腕を振り払い、
アッと言う間もなく改札を抜ける。
駅員は止めなかった。
こいつの頭の中ではきっと、
触るなら……の箇所がリピートされてるに違いない。
「すいま……せん。
あのお客様を一応覚えておいて、
また次に現行犯なら」
「……うっせ。うすらバカ。
ちゃんと仕事しろっ」
捨て台詞を残すと、改札へ。
苛立ちながら定期を通し、
前を歩く天敵を発見。
同じクラスで学校1の人気者、
何の因果か隣の席、
の、広田 日向(ヒロタ ヒュウガ)は
私に気づき、
嫌味な程均整のとれた笑顔でニッコリ笑うと、呑気に声をかけてきた。
「グッモーニン、安野。
朝から威勢がいいな」
「……うっせ。
おまえと並ぶとまた女どもがピーチクうるせーから先行くわ。
じゃあな」
……ったく女はどうしてああ言うのが好きなのか。
昴兄や響兄とは元来持ってるものが違う奴。
ローファーの爪先を蹴りあげて、
朝靄の中を突っ切った。
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