第1話

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「ちょっとみんな見た~!? 安野さん、今日痴漢されたの~!」 教室に入るともうニュースだ。 ……そう言えばあの時 同じクラスの何人か、いたかも。 田中 桃(タナカ モモ)は 大きなリボンのポニーテールで、 私の席にやって来た。 「おっはよ、安野さん。 朝から大変だったねっ」 ……こいつには悪意がある。 隣の席に広田 日向が座ると、 それはまた、むき出しに。 「無視しないでよぅ。 ああ言うの、女の敵じゃん」 「……あれは私が触られたんじゃねーし。 ごめん、もういい?」 見上げると見えたのは、 グロスまみれの尖った唇。 次の一手をすぐ思い付いたのか、 それはニッコリ笑った。 「だよねー。 あ、ごめんねっ、別に深い意味はないの。 ほら安野さんってすごくボーイッシュじゃん? だからまさかなーとは思ってたんだけど。 やっぱそうなんだ。 あの叔父さんも冤罪だ~とか何とか騒いでたもんね」 ……全部見てたって事。 もういい? それを繰り返そうとすると、 広田 日向がいきなり喋った。 「ボーイッシュね。 物は言い様だな。 つまりはこいつが男みたいだから 触られる訳ないって、ハッキリ言えば?」 広田にそう言われると、 途端に田中 桃の頬が紅く染まった。 「やだぁ~。そんなのぜんっぜん思ってないし。 日向君の意地悪」 「意地悪じゃねーし。 事実だろ? 安野がトランクス履いてるって、 田中おまえ、前に言ってたじゃん」 ギクリとする。 噂になってるのは知ってたが、 発生源はこいつか……。 でもほんと、 何で男に生まれなかったのかって思う。 何が悲しくて女はあんな小さなパンツを履くのか理解出来ないし、 ブラジャーも然り、だ。 バレンタインとやらも、 鬱陶しいし、 手作りを強制するような あのグッズたちが並ぶ季節は、 貰う側に回りたい。
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