言えないキス

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オレンジのボールが宙を舞う。 そして赤いリングに触れることなくネットをずさっとすり抜けて床に落ちた。 バスケは、自主トレが基本。 だから時間があれば凌はここでボールに触れる。 「真面目だな、リョウ」 かけられる声に「ニック」と名前を口にして凌は苦笑した。 「そんなに真面目かな?」 「お前以上にここへ来てるメンバーはいないぞ?」 「みんな忙しいんだね」 「お前が言うとイヤミにも聞こえんな」 そう言って、今度はニックが笑った。 ニックはこの大学のコーチで、凌をここに勧誘した人物だ。 「で、今度サリーのパーティーに行くんだって?」 「……何で知ってるの?」 「そこでチアーの女共が大騒ぎしてたぞ? 真面目なベイビーボーイがついにやってくるってな?」 楽しそうにそう語るニックに凌はため息をつきそうになる。 そんな凌にニックは肩を抱いて「ははっ」と笑う。 「とうとう日本の彼女と別れたか? まぁ、距離がありすぎるし仕方ない――」 何気ない一言。 なのだけど、凌は彼の手を払い冷たく見据えた。 「ニック、僕はゲイに偏見は無いけど、僕自身はノーマルだから」 「わ、分かってるよ。そんなんじゃ」 「パーティーだってただの息抜きだよ。レオがそうしろって言うから」 凌らしからぬ冷たい態度に「そ、そうか」と戸惑いながらも、 「お前のベイビーフェイスには誰もが騙されそうになる。でも気をつけろよ? 誰もがいい奴じゃないからな」 そう言って、ニックは肩を叩こうとしたが、その手で凌に触れることなく彼はコートから出て行った。
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