言えないキス

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「八つ当たり、だったね」 心の中でニックにごめんと謝りながらボールをゴールに放る。 けれど、珍しくそのボールはリングにぶつかりクルリと回るとネットを揺らすことなくこぼれてしまった。 床にダンッとぶつかるボール。 その音を聞きながら凌は小さく息を吐いた。 それから彼女に連絡する機会もなく週末がやってきた。 「そんじゃ、夜迎えに行くからな!」 「あのね、レオ。やっぱり今夜の――」 「ダメだ。もうキャンセルは効かねえよ」 そう言われて、自転車で去っていくレオの背中を見送る。 「リョウ! 今夜は来るんだって? 楽しみにしてるわ」 「あら、セシルったら抜け駆け?」 「キャルだって今日のために服買ったって……」 そんな声を聞きながら、凌はもう一度ため息をついた。
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