1560人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、ダメなんだ」
「……何が?」
柔らかそうな彼の髪が揺れる。
そして憂いを帯びた目がシェリーに向けられた。
「どんなキスもセックスも彼女以上に感じることはなかった。それに……」
凌の顔に薄く自嘲気味な笑みが浮かんだ。
「彼女に嘘は付けない」
きっぱりと言い切ると二人の間に少しずつ距離が出来ていく。
「……黙ってれば?」
こんな提案、
「無理かな? 僕が彼女のすべてを知りたいように、きっと彼女も知りたいと思ってるはずだからきっと話しちゃうよ」
すぐに却下されるのも分かってた。
「それに……」と続けられるセリフに頭の中でもう一人の自分が「諦めろ」と吐き捨てる声さえ聞こえる。
「泣いてる彼女を見るのも苦手なんだ」
少しはにかむもうに笑う彼。
その姿にシェリーは大きく息を吐いた。
心の中の何かも一緒に吐き出すように。そして、
「……その彼女、幸せね」
白旗をあげた。
距離とか人種とか、そんなのは問題じゃないくらいの壁を感じてしまったから。
そんなシェリーの前で凌は少し困ったように笑う。
「どうかな? 自分のエゴでアメリカに勝手に行っちゃって、もしかしたら呆れてるかもね」
「思ってないくせに」
「え?」
すぐに聞き取れなくてちょっとだけ首を傾ける凌にシェリーは大きく口角をあげて綺麗な笑みを作る。そして、
「その時は私が彼女に立候補してもいい?」
そんな提案に凌は目を開く。そして、
「それでも僕は彼女が好きだと思うけど、いい?」
ニコリといつもの笑顔を見せると、
「この身体で慰めてあげる」
なんて自分の胸を両腕で持ち上げるようにしてウインクするから、
「その時はよろしく、シェリー」
凌も目を細めて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!