言えないキス

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「でも、ダメなんだ」 「……何が?」 柔らかそうな彼の髪が揺れる。 そして憂いを帯びた目がシェリーに向けられた。 「どんなキスもセックスも彼女以上に感じることはなかった。それに……」 凌の顔に薄く自嘲気味な笑みが浮かんだ。 「彼女に嘘は付けない」 きっぱりと言い切ると二人の間に少しずつ距離が出来ていく。 「……黙ってれば?」 こんな提案、 「無理かな? 僕が彼女のすべてを知りたいように、きっと彼女も知りたいと思ってるはずだからきっと話しちゃうよ」 すぐに却下されるのも分かってた。 「それに……」と続けられるセリフに頭の中でもう一人の自分が「諦めろ」と吐き捨てる声さえ聞こえる。 「泣いてる彼女を見るのも苦手なんだ」 少しはにかむもうに笑う彼。 その姿にシェリーは大きく息を吐いた。 心の中の何かも一緒に吐き出すように。そして、 「……その彼女、幸せね」 白旗をあげた。 距離とか人種とか、そんなのは問題じゃないくらいの壁を感じてしまったから。 そんなシェリーの前で凌は少し困ったように笑う。 「どうかな? 自分のエゴでアメリカに勝手に行っちゃって、もしかしたら呆れてるかもね」 「思ってないくせに」 「え?」 すぐに聞き取れなくてちょっとだけ首を傾ける凌にシェリーは大きく口角をあげて綺麗な笑みを作る。そして、 「その時は私が彼女に立候補してもいい?」 そんな提案に凌は目を開く。そして、 「それでも僕は彼女が好きだと思うけど、いい?」 ニコリといつもの笑顔を見せると、 「この身体で慰めてあげる」 なんて自分の胸を両腕で持ち上げるようにしてウインクするから、 「その時はよろしく、シェリー」 凌も目を細めて笑った。
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