言えないキス

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充実してる、といえば充実してる夏休み。 予備校に通って、時間がある時には部活にも顔を出す。 3年生は殆ど引退して、残っているのはコータとアキくらい。 「……ってか、コータ」 「おう!」 「お前、勉強いいのか?」 「俺はスポーツ推薦で大学行くから!」 「それ、落ちる可能性もあるよな?」 「はい?」 「もう一度聞くぞ? 勉強いいのか?」 「……」 そんな会話を聞きながら美穂はボールの整理。 「真咲さんも大丈夫? 結構来てるけど」 そう話を振られて、美穂は苦笑いを浮かべた。 「大丈夫! って言いたいけど、どうかな? でも、部活は本当にやりたいからきてるだけだし」 美穂にそう言われて、アキは腕組みをした。 コータも美穂も「なら、お前は大丈夫かよ?」とは聞かない。 彼の成績は二人には及ばないほど上にあることを知ってるから。 すると、 「分かった」 と、アキが大きく息をついた。 「何が分かったんだ?」 「コータが浪人しそうだってこと」 さらりとそう言われて、コータはぽかんと口を開ける。そして、3秒後。 「ななななななな、何いってんねん!?」 「なんで関西弁?」 冷静なアキのセリフに頷きながらも美穂は自分とコータを見るアキを見上げた。 「部活終わったら俺が家庭教師する」 「え?」 驚きの声はコータとステレオに。 「実際、ムードメーカーのコータに抜けられても、真咲さんに抜けられて新人マネージャーだけにされても困るのは残された俺だし」 「いや、まぁ、俺が抜けたら絶対困るよな? うん」 アキのセリフに照れるコータ。 「だからってそれを理由に志望校に受からなくても、後味悪いし」 「だよなーって! 落ちるの前提かい!!」 そんなコータの突っ込みもアキはさらりとスルー。 「だから、夏休みの間は部活終了後スパルタで勉強。分かった?」 「おう! 勉強な……? え?」 「はい、決定。真咲さんもいい?」 混乱中のコータはそっちのけで、美穂に向けられるアキの声。 その提案はありがたい。だけど、 「あたしは嬉しいけど……、いいの?」 彼にだって自分の都合があるはずだ。 だから そう聞いたのだけど、 「俺、大学ではバスケはやらないから今年で最後なんだ。だから、出来れば協力して欲しい」 真剣にそう語るアキに、 「それじゃ、よろしくお願いします」 美穂はぺこりと頭を下げた。
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