言えないキス

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冷たい風に頭の中も冷やされていく。 いくらアルコールで判断力が鈍ったからって、避けることくらい出来たはずだ。 組み敷かれたって、相手は女の子でいくらでも押しのけることが出来た筈なのに――。 「だから?」 聞こえてくるシェリーの声に顔をあげる。 「……これって良くないよね」 普通に考えればそうだ。 彼女に出会う前なら気にもならなかったけど。 「キスなんてただの挨拶じゃない) そうぶっきらぼうに答えるシェリーに凌は苦笑する。 「日本ではステディな関係でないとしないよ」 「ここはアメリカだわ。だからキスなんてただの挨拶よ」 「……うん」 シェリーの言うとおり、気にすることなんて無いのかもしれない。 だけど、 「美穂に言ったら泣くだろうね」 頭に浮かぶ彼女の涙に凌は目を伏せた。 「ミホって言うんだ」 「うん」 「可愛い?」 「可愛いよ。ツンデレで」 「なにそれ」 「日本で流行ってるんだ」 そう答えるとシェリーは「ふーん」とガムを膨らませてパンと割ると、 「言わなきゃいいじゃない」
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