言えないキス

6/37
前へ
/37ページ
次へ
夏休みも、もうすぐ終わる。 そして彼も。 「あ、明日からなんですね」 「うん。入学式なんてものは無くて、オリエンテーションがあるくらいらしいけどね」 彼はアメリカの大学生になる。 「なんか、大変そうですよね……」 「そうかな? 今までも通ってたからあまり実感沸かないね」 そう言って微笑む彼に美穂も薄く笑う。 「バスケは?」 「うん、そっちももう参加してる。やっぱり凄いね。体格の違いも大きいけど――」 そう話す凌の声に美穂は耳を傾けた。 遠いようで近い、けどやっぱり遠い。 出来ることは話すことだけで、それ以上は出来ない。 だからお互いのことを話して聞いて……。 寂しくないか? と聞かれれば勿論寂しい。 だからって毎晩泣いたりする事はないっていうのは、この寂しさに慣れてきたのだろうか? どんどん慣れてこれが当たり前になって、その先はどうなるんだろう? なんて考えて、美穂は小さく背筋を震わせた。 「どうかした?」 画面の向こう、気にかけてくれる彼に、 「なんでも。もうこっちは夜が寒いんです」 そう答えて笑った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1560人が本棚に入れています
本棚に追加