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「さて,到着っと」
何故か手を繋ぎながら,遊園地のゲートを越えた。
「逢沢,此処が目的地?」
「あ,逢沢って言った」
はっ! しまった…呼んでしまった。
「キスするって言ったよね俺」
「そ,そうだったっけ…?」
「惚けても無駄だよ春輝」
「あ,あの…本気なの?」
「男に二言はないよ」
まさか本気とは。
まぁ,予想してたけど。
「遊園地かぁ…久しぶりだなぁ」
「俺も久しぶりだ。小学生以来だな…春輝と此処に行きたかったんだ。デートの定番だろ?」
定番なのかは分からない。
「定番なの?俺,花月とは行かなかったよ。お金なかったし」
「ほぅ…つまり,春輝は彼氏と此処に行くのは初めてという事か。
嬉しいな」
「俺は御前の彼女じゃないんですけど」
そういえば,遊園地なんて花月と行った事ないな。
花月と一緒にアニメ系の店回ったり,街中ぶらぶらしたりしてただけだしな。
幸せそうな笑顔の花月の顔が頭をよぎる。
もう遅いかもしれないけど,もっと一緒にいたかった。
そんな事言えるわけない。
花月には自分から振ったようなものだし。
俺は本当に花月が好きだったんだなって思った。
今更何を思い出してるんだろう。
「春輝…?」
逢沢が顔を近づける。
頬から何かが流れ落ちているらしく,逢沢はそれをすくって舐めた。
「しょっぱい」
と一言。
"それ"の正体は涙だった。
いつの間にか泣いてしまっていたようだ。
何を泣く事があるのだろうか。
花月の事を思い出したから?
逢沢に対して罪悪感が生じたから?
多分そのどちらなんだろう。
両方なのかもしれない。
「…御免」
何故か謝られた。
違うんだ,逢沢。
御前は何も悪くないんだ。
「無理させて御免.もう帰ろうか」
そう言って,悲しげに微笑む逢沢。
逢沢にすげぇ迷惑掛けてるな俺。
「折角なんだから楽しもうよ」
俺は微笑んで,手を差し出した。
俺ばかり我儘言ってられない。
「…本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。逢沢,行こう?」
逢沢は俺の手を握った。
「そうだな,折角の日曜日だ。
楽しもうか」
歩き始める2人。
だけど,逢沢は脚が長いからどうしても俺が早歩きになってしまう。
俺は早足でついていく。
「春輝」
急に逢沢が立ち止まった。
「逢沢どうしたの?」
「少し,ゆっくり歩くよ」
「ありがと…」
何気に優しい逢沢に不覚にもときめいて…ない!
俺はそう自分に言い聞かせた。
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