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「さすがに客にアポとってたし、出会ってすぐに住所を聞き出すって言うのもイメージダウンかと思って」
「・・・・・・」
全く覚えてないのか、
俺を見上げる奈々美の顔は呆然としたまま。
今では、こんな顔だって俺の心を掴んでしまう。
「だから、正直がっかりだった」
「えっ?」
「一週間して受付に座ってる奈々美は別人だったからな」
「別人?」
そう繰り返す奈々美の頭にポンと手を置いた。
俺は『あの時』の彼女が『本当』の姿だと思ってたから。
「やっと奈々美が受付に座ってるのを見て嬉しかったんだけどね、
作り笑いのお面つけて『おはようございます』って言われたときはがっかりしたよ」
「――はっ?えっ、えと、でもっ、受付だし、笑ってそう言うのが当たり前で」
慌ててそう口にする奈々美に「そうだね」と言って、なだめるように彼女の頭を撫でてやる。
そう、それが当たり前。
彼女が受け付けに座る限りは。
だから、
どうしても見たかった。
もう一度、あの笑顔を――。
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