綺麗な花には…?

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その夜、あたしの電話が鳴ったことに気がついたのはお風呂から上がってから。 相手は勿論彼で・・・・・・。 携帯の液晶に映る名前を見てる間に、また携帯が音を奏でた。 一瞬驚いて、条件反射的に通話ボタンを押そうとして―― 止めた。 携帯は30秒くらい音を奏でて、 静かになった。 我ながら、なに拗ねてるんだろうって思う。 前にも『仕事の愚痴はこぼしたくない』って言ってのに。 だから、拓海とあたしの間では『仕事』の話は無いだけなのに。 ギュッと握った携帯が小さな着信音を。 そっと開くと点滅する携帯。 メールだ。 そっと開いて中身を確認する。 送信者は『榊 拓海』。 『まだ早い時間だと思ったんだけど、もう寝てた?  起きてたら連絡して』 いつもと変わらない。 絵文字もない、まるで業務連絡みたいなメール。 時計を見るとまだ10時。 『寝てた』って言い訳するには早すぎる時間で・・・・・・。 しばらくそのメールを眺めて、 返信ボタンを押した。 『ちょっとお風呂に入ってて。出れなくてごめんね。  今日はジムに行って疲れたので早めに寝ます。  おやすみ』 あたしは嘘をついた。 そのメールを送ってしばらく携帯を眺めていたけど、 あたしの携帯はもう音を奏でることは無くて・・・・・・。 目覚まし代わりに鳴る携帯の音楽で目を覚ました。 どんなに落ち込んだって拗ねたって、人間は眠れるものらしい。 そんな自分にため息をついて起き上がる。 鏡を見ると髪はボサボサ。 ちゃんと乾かさないで寝たからだ。 今さらながらに後悔。 電話に出るべきだった。 普通を装って、 『今日来た人は上海の同僚?』 とか、聞けばよかった。 『仕事ってどんなことしてるの?』 って聞けばよかった。 聞いたらきっと答えてくれたはず――。 だけど、時間は戻らなくて、 「シャワー、浴びよっかな……」 あたしは頭から熱めのシャワーを浴びることにした。
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