綺麗な花には…?

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「あ、あのっ」 「何か聞いたのか?」 「・・・・・・」 聞こえてくる少し低い声。 『何か』って言ってもあたしが聞いたのはただの『噂』で、何の信憑性も無い。 それにその『噂』を口にするのはなんだか嫌で・・・・・・。 黙ってしまったあたしに、小さくため息のようなものが耳に届いた。 「大体、どんなものかは想像できるけど」 「・・・・・・」 「今、俺が付き合ってるのは奈々美だから」 ・・・・・・そう、なんだけど。 「それじゃ駄目か?」 それでいいはずなんだけど、 素直に「いいよ」って言えないのはやっぱり気になるから。 「彼女とはつき合ってない。過去も今も」 「・・・・・・えっ?」 突然の告白に思わず声が出てしまった。 「確かに上海にいたとき、仕事は一緒にしたけどね」 つき合って、ない? 昔も? 「信じる?」 「・・・・・・」 信じたい。 『うん』って言わなきゃって思うのに―― 頭の中では他のことを考えてた。 『じゃあ、なんで三崎さんは拓海って呼び捨てなの?』 とか、 『土曜日にかかってきた電話は何?』 とか、 『日曜日も会ってたの?』 とか。 ぐるぐるいろんなことを考えてると、またあたしの耳に小さなため息が聞こえた。 「奈々美、聞いてる?」 「あ、うん」 「信じてない?」 「そんなことっ」 「じゃあ、まだ何か聞きたいことがある?」 「・・・・・・」 ある。 けど、 「ないよ」 って答えた。 だって、これじゃただのウザい女だ。 だけど、そんなあたしの考えなんてお見通しなのか、 「ホントに?」 念を押すような拓海の声。 それでもあたしは「うん」と答えた。
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