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ゆっくりと受話器を置く。
何だったんだろう?
「あれ?アポないって?」
「あ、いえ!すぐに下りてくるそうですから少々お待ちください」
そう答えると、目の前の『ミサキ』さんは、
「あー、もしかして……」
と言いながら振り返った。
「お前、アポとったって嘘なんじゃね?」
そういった先には、一人の女性が立っていた。
紺色のタイトスカートのスーツ。
真っ白なブラウスは胸元までボタンが外されて、足元はシャネルのパンプス。
髪はきっちり夜会巻き、ノンフレームのメガネにおとなし目の翡翠のピアス。
『キャリアウーマン』という言葉がこの上なく似合う女性が、クスリと笑った。
カツンとピンヒールが床を鳴らす。
ヒスイのピアスがキラリと光った。
品のいいチェリーピンクの唇が艶めきながら言葉を。
「あたし達と拓海の間にアポなんて無粋だわ」
『拓海』
その名前を呼ぶ彼女の声に違和感はなくて、
あたしは思わず息を止めてしまった。
「三崎ぃ、おまえねぇ」
目の前の男性が呆れるように彼女の名を。
『ミサキ』
彼女の名前。
彼女が『ミサキ』だった。
たぶん、苗字。
そうなんだけど・・・・・・。
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