綺麗な花には…?

8/40
前へ
/40ページ
次へ
ゆっくりと受話器を置く。 何だったんだろう? 「あれ?アポないって?」 「あ、いえ!すぐに下りてくるそうですから少々お待ちください」 そう答えると、目の前の『ミサキ』さんは、 「あー、もしかして……」 と言いながら振り返った。 「お前、アポとったって嘘なんじゃね?」 そういった先には、一人の女性が立っていた。 紺色のタイトスカートのスーツ。 真っ白なブラウスは胸元までボタンが外されて、足元はシャネルのパンプス。 髪はきっちり夜会巻き、ノンフレームのメガネにおとなし目の翡翠のピアス。 『キャリアウーマン』という言葉がこの上なく似合う女性が、クスリと笑った。 カツンとピンヒールが床を鳴らす。 ヒスイのピアスがキラリと光った。 品のいいチェリーピンクの唇が艶めきながら言葉を。 「あたし達と拓海の間にアポなんて無粋だわ」 『拓海』 その名前を呼ぶ彼女の声に違和感はなくて、 あたしは思わず息を止めてしまった。 「三崎ぃ、おまえねぇ」 目の前の男性が呆れるように彼女の名を。 『ミサキ』 彼女の名前。 彼女が『ミサキ』だった。 たぶん、苗字。 そうなんだけど・・・・・・。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1440人が本棚に入れています
本棚に追加