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さっきまで抱きしめられてた感覚がまだ体に残ってる。
自由になったのにあたしの身体は凍ったみたい。
「奈々美」
落ち着いた優しい声。
彼の顔にはいつもの笑みは無くて、
向けられるのは真っ直ぐな視線。
「信じて――」
やっぱりダメだ。
彼の言ってることが嘘でも本当でも、
どうでもいいって思ってる。
それが証拠に、
勝手に涙が浮かんでくる。
視界がぼやけて仕方ないの。
やっぱり、
拓海が好き。
涙が頬を伝う、
なんてもんじゃない。
ボタボタと零れていく涙。
「奈々美・・・・・・」
拓海が困ったような声であたしを呼ぶ。
でも、止まらないの。
どうやっても止まらないの。
『信じてる』って言いたいのに、喉は何かに塞がれて声が出ない。
頷くだけでいいのに動けないの。
「――ごめん」
彼の指があたしの頬に触れて、
「ふっ、たく、の・・・・・・かぁ」
「うん、ごめん」
もう一度抱きしめてくれる腕の中で、
思いっきり泣いた。
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