1521人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめん」
その声と一緒に大きな手があたしの頭に落ちてくる。
「でも、本当になにもしなくていいから」
あたしはソファに座って目の上に冷たい濡れタオルが置かれてるから彼の表情は分からない。
だけど、その声はとてもやさしくて。
「帰りたいなんて言うなよ」
声だけって言うのは妙にドキドキしてしまう。
どんな顔で言ってるんだろう?
傍にいるのはわかるけど、隣に座ってるわけじゃない。
だって、ソファのスプリングが沈まないから。
でも、声は凄く近い。
多分、ソファの後ろにいるんだと思う。
確かめたくて、瞼の上のタオルを避けて、
「ってか、帰さないけど」
「――んっ」
やっぱり後ろだった。
すぐにキスされてその表情は見えなかったけど。
・・・・・・なんか、
すごい久しぶりな気がする。
一昨日の夜にも会ってるし、同じ会社でも会わないことだって多いんだから『久しぶり』って言うのはおかしいんだけど。
でも、もっとこうしていたくて肩に置かれた手に自分の手を重ねようとして――、
「で、何食べたい?」
「・・・・・・」
唇はあっさりと離れてしまった。
「奈々美?」
「えっ?あ、うん、えっと・・・・・・、ピザとか?」
ほかにデリバリーしてくれる料理なんて浮かばなくてそう答えると、拓海は「了解」と言っていつもの笑顔を見せた。
最初のコメントを投稿しよう!