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会社に戻り、受付に座る彼女をみてはつい顔が緩んでしまう。
あぁ、マズイ。
もしも電話なんかしたらこれ渡す前に口が滑ってしまいそうだな。
まるで子供だ。
彼女の返事がどんなものになるかなんて分かりもしないのに浮かれてる自分がいる。奈々美に電話して約束を取り付けようとしたら、『ホント? 本当に早い? だって仕事は?』って言われてしまった。
俺って本当にどうしようもない人間だ。
金曜日。
目覚ましがなる前に目が覚めた。って俺はガキか? 苦笑しながら体を起こして、確かめたのはコートの中の箱。
自惚れかもしれない。だけど、きっと彼女は頷いてくれる。そんな自信が俺にはあった。
今日も彼女は受付に座ってる。
「お待ちしておりました、葛西様ですね。承っております。少々お待ちください」
凛とした姿、声も耳に心地いい。
「こちらへ、ご案内いたします」
浮かべた笑顔が作り物だとしても、美しさは損なわれない。客への受け答えも言葉遣いも完璧。相手に好印象しか残さない。会社の顔だといってもいい受付の仕事を彼女は毎日真面目にこなす。どの会社にも引けを取らない受付嬢だと思う。
仕事はどこででも出来るだろう。けれど上海では無理だ。英語が話せても広東語は無理だから。
俺は、なんて我侭なんだろう?
自分が勝手に上海行きを決めたはずなのに彼女まで巻き込もうとしてる。仕事も家族も友人も。すべて置き去りにして俺と一緒に、なんて。これを機に結婚しようだなんて、都合よすぎだろ?
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