高嶺の花の咲かせ方

10/10
前へ
/18ページ
次へ
 なのに、 「――拓海」  もう時間は12時近い。こんな時間にいるはずのない彼女が俺の部屋にいる。 「奈々美? なんで」  一瞬、幻かと思った。だけど見える彼女は幻なんかじゃなくて、だから。 「まだやってたのか? もう――」  終電が……。そう言おうとして、彼女の手にあるものに気がついた。彼女に渡すはずだった『箱』 「コートの内ポケットにあった」  その声に俺は苦笑した。ポケットから出すことも出来なかった箱。彼女に渡すことも、捨てることも出来ずにずっと持ち歩いてた。だけど、もうコートの必要な季節じゃなくなって――、  トンッ…… 「えっ? な、奈々美!?」  胸にいきなりの衝撃。奈々美が飛びついてきて。そして、 「拓海、あたし――」  震える腕に、声に、これから彼女の唇から紡がれるだろう言葉を理解して、俺はすぐさま彼女の唇に指を当てた。 「待って」  嬉しすぎだろ、これ。同時になんて情けない俺。思わず乾いた笑いがこみ上げてくる。 「格好悪ぃな、俺」  本当になんて格好悪いんだろうな? 彼女にここまでさせて、ここまで言わせて、しかもそれを横取りなんて。彼女の前では本当にどうしようもない。いつも決めたいときに決められない。 「だから……」  この瞬間だけは譲れない。どんなに格好悪くてもいいから、 「せめて俺から言わせて」  そう言って奈々美を強く抱きしめると、応えるように彼女の指が俺の背中を引っかいた。 「俺と、結婚してください」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1230人が本棚に入れています
本棚に追加