第1話

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 文化祭まであと一か月と少しという日、LHRでは文化祭での役割を決める話し合いがものの見事に停滞していた。一応この時間に全員分の役割を決めるはずなのだが、最初に決めるべき文化祭実行委員を誰もやりたがらない。どうせ誰かがやらないと先に進まないんだから、早く誰かやれば良いのに。あたし以外で。……なるほど、決まらないわけだ。  どの道あたしに声がかかることはないだろう。ほとんど関わりを持たないようにしている奴に実行委員なんて任せてもしかたない。いつものように窓の外を眺める。今日はスーパーで豚肉が安かったから、今日は生姜焼きにするか。大志も喜ぶだろう。  他のクラスメイトはふざけて誰々くんがいーと思いまーすだのと発言し、他薦された人が他薦し返すなんていう無益極まりないやり取りをしている。女子は女子で、話し合いそっちのけでおしゃべりしている。一回目の実行委員があるのは今日だから、決まるまで帰れないパターンだ。豚肉が遠ざかる……。  無情にもチャイムがなる。仮にも進学校で、一時間使って文化祭実行委員一人決められずに無駄な時間を過ごすというのは大丈夫なのだろうか。やる気のないあたしに言う権利はないけど、それでも言いたくなる。  次の時間は国語だ。教科書とノートを出して眺めていると、教卓に何かをたたきつける音。目を向けると、国語教師兼生徒指導担当の平塚静先生(独身)が来ていた。 「なんだ、まだ実行委員が決まっていないじゃないか」 「あ、それはその……」  眼鏡のルーム長が口ごもっていると、先生は教室の一点に目を向けた。 「なんだ、比企谷はどうした」 「あ、八幡なら保健室に行きました」  戸塚がすかさず答える。先生が来たといってもまだ休み時間。耳を貸さなくても良いのに律儀に答えるところはえらいと思う。ちなみに比企谷は、いないことに担任に気付かれてさえいなかった。 「ふむ。比企谷は役割の希望を出していたかね?」 「いえ、余ったので良いって」 「ふむ。なら比企谷で良いだろう」  言って、先生は何のためらいもなく黒板の文化祭実行委員の文字の下に比企谷と書いた。  哀れ、比企谷……。合掌。
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