プロローグ

2/4
前へ
/70ページ
次へ
もう、何もかもどうでも良い。 生きることが億劫になった。 こんな世界―――――くだらない。 バス停で、バスを待っていた。 西日に照らされた大きな箱は、時間通りにやってきた。 ……何しているんだろう。 目の前に停車したバスを見上げ、自嘲気味に笑う。 白く染められた息が口から出た。 別に、乗らなくても良い。 家なんて帰っても意味がない。 それなのに、勝手に足は動く。 それが日課だからだ。 無意識に行動する体を、どうすることもできない。 結局は臆病なんだ。 バスに乗り込めば背後で扉が閉まり、そして発車した。 ピッと定期をセンサーにかざし、開いている席に座る。 乗客は数人いたが、皆窓に顔を預けて眠っていた。 腰を下ろした瞬間、急な睡魔に襲われた。 …このまま、終点まで行ってしまおうか。 降りるべき場所は、どこにもないのだから。 うつらうつらとする意識の中で、最後に見たのは綺麗な夕日だった。 手首につけられた腕時計は、本来の時刻よりも2分ほど早い――― 「あーっ!…ったく、ホント最悪…!」 携帯を片手に大声を上げる。 幸い周囲には誰もおらず、視線を集めることもない。 バス停のベンチに座り、早くバスが来ないかなと視線を巡らせる。 予定時刻まであと3分。 「あーあ……好き…だったのに」 頬を伝う涙はそのままに、夕日を見上げた。 今日の夕日は綺麗だ、なんて柄にもないことを思う。 その景色を見ていたら、何だかどうでも良くなってきた。 何で自分は生きているんだろう、なんて考える。 胸にぽっかりと空いた穴は到底埋められそうもなく、上手くいかない現実に憤りを感じるしかない。 「あ…バスが来た…」 携帯を見れば、予定の2分前。 遅れることはよくあるが、早く着くのは珍しい。 これは些細なラッキーなのかもしれない。 少し心が浮上したその瞬間、ふっとバスが半透明になった。 「え…!?」 一体何事かと目を擦るが、次に見たときは何ら変わりない普通のバスだった。 「やだ…心のショックが大きくてとうとう幻覚まで見るようになったの…?」 一抹の不安を抱えつつ、バスの階段を上がる。 乗車券を取って、入り口から一番近い席に腰を下ろした。 「ふあ……」 泣いたからだろうか、眠くなってきた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加