プロローグ

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もう、何もかもどうでも良い。 生きることが億劫になった。 こんな世界―――――くだらない。 バス停で、バスを待っていた。 西日に照らされた大きな箱は、時間通りにやってきた。 ……何しているんだろう。 目の前に停車したバスを見上げ、自嘲気味に笑う。 白く染められた息が口から出た。 別に、乗らなくても良い。 家なんて帰っても意味がない。 それなのに、勝手に足は動く。 それが日課だからだ。 無意識に行動する体を、どうすることもできない。 結局は臆病なんだ。 バスに乗り込めば背後で扉が閉まり、そして発車した。 ピッと定期をセンサーにかざし、開いている席に座る。 乗客は数人いたが、皆窓に顔を預けて眠っていた。 腰を下ろした瞬間、急な睡魔に襲われた。 …このまま、終点まで行ってしまおうか。 降りるべき場所は、どこにもないのだから。 うつらうつらとする意識の中で、最後に見たのは綺麗な夕日だった。 手首につけられた腕時計は、本来の時刻よりも2分ほど早い――― 「あーっ!…ったく、ホント最悪…!」 携帯を片手に大声を上げる。 幸い周囲には誰もおらず、視線を集めることもない。 バス停のベンチに座り、早くバスが来ないかなと視線を巡らせる。 予定時刻まであと3分。 「あーあ……好き…だったのに」 頬を伝う涙はそのままに、夕日を見上げた。 今日の夕日は綺麗だ、なんて柄にもないことを思う。 その景色を見ていたら、何だかどうでも良くなってきた。 何で自分は生きているんだろう、なんて考える。 胸にぽっかりと空いた穴は到底埋められそうもなく、上手くいかない現実に憤りを感じるしかない。 「あ…バスが来た…」 携帯を見れば、予定の2分前。 遅れることはよくあるが、早く着くのは珍しい。 これは些細なラッキーなのかもしれない。 少し心が浮上したその瞬間、ふっとバスが半透明になった。 「え…!?」 一体何事かと目を擦るが、次に見たときは何ら変わりない普通のバスだった。 「やだ…心のショックが大きくてとうとう幻覚まで見るようになったの…?」 一抹の不安を抱えつつ、バスの階段を上がる。 乗車券を取って、入り口から一番近い席に腰を下ろした。 「ふあ……」 泣いたからだろうか、眠くなってきた。
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