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「ん……」
随分と深い眠りについていた気がする。
不意に肩を揺さぶられ、俺はゆっくりと目を開けた。
「あ…っ、気がついた!」
「君は……」
何故目の前に、見知らぬ女性が立っているのだろう。
ぱっと見た感じ自分と同じぐらいの年齢だ。
ダークブラウンの髪の毛はストンと胸元まで落ちていて、そこからふんわりとウェーブがかかっている。
アーモンド型の大きな目は印象的で、顔は抜かりなくメイクが施されている。
可愛い女性だな、なんて寝ぼけた頭でぼんやりと考えた。
「あの…いきなりどうしたんですか」
確か俺は……俺は?何をしていたんだっけ?
ズキズキと痛む頭を擦り、背もたれに預けていた体を起こす。
ここは…どこだ?
よく見れば、俺は今バスの中にいるようだ。
はて、バスになんて乗ったっけと首を傾げる。
「どうしたんですか、じゃないよ…!周りをちゃんと見て」
女性に促されるまま、俺は背後を振り返った。
それと同時に飛び込んできた異質な光景。
「………なんだこれ?」
何でみんな、総立ちなんだ。
そして何でみんな、青い顔をしているんだ。
乗客たちの様子の異常さは一目瞭然で、俺は目を瞠る。
それぞれ何か喚きたてているが、各々が騒いでいるため何を言っているのかは聞き取れない。
「なんだこれ?…って、そんな暢気なこと言ってる場合じゃないでしょ」
頭を両手で挟まれ、グリンと強制的に窓を向けさせられる。
何でこんな力強いんだよ。
「いてて…結構怪力なんですね……いってぇ!」
強烈な痛みが俺のこめかみを襲う!
「何か言った?」
「いや、何もございません」
これだから女ってのは怖いんだ…
俺はため息をついて、窓の外を見た。
「え―――――?」
嘘…だろ?
何なんだ、この景色は。
様々な色の光が渦巻き、うねうねと気味の悪い動きをする。
底の分からない…というよりは、上下左右という感覚そのものを逸していると言うべきか。
まるで無重力空間のようなその光景。
見ているだけで気分が悪くなってきそうだ。
これは俗に言う、異次元空間というか四次元空間というか。
そんな異質な空間の中に、このバスはいた。
異常なのは…乗客なんかじゃない。
そこで初めて、俺は自分の置かれたこの状況こそが異常なのだと気づいた。
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