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「え…えーっと…さっきは、すごかったな。君が倒してくれたおかげでみんな無事だったし…ありがとう」
とりあえずお礼だけでも言っておこう、としどろもどろになりながらも何とか言う。
すると蘭丸は、俺をゴミでも見るような目で見てきた。地味に傷つく。
「お前さ……んなこと言ってると、真っ先に死ぬぞ?」
「え…」
「テメェみたいな甘ちゃん、このサバイバルで生き残れねぇっつってんだ。ありがとうだと?馬鹿じゃねーの?あれは俺のためにやったんだよ!俺が生き残るためにあいつを殺した」
蘭丸の言葉は、俺の心にズシリと重石を置いたようだった。
「他の連中なんてどうだっていい。もちろんそれはテメェもだ。俺は、俺さえ生き残れたらいいんだよ」
蘭丸はハッと鼻で笑うと、バサッとタオルをこちらに投げてきた。
「俺にタオルくれたのもそうだけどよ、お飾りみてぇな偽善はやめとけ。ヘドが出る」
血で染まったカッターシャツをその場に捨て、蘭丸は上半身裸の状態でリュックと大剣を背負った。
そして俺に目もくれずスタスタと目の前から立ち去って行く。
俺は呆然とその場に立ち尽くしていたが、「あ」と声が聞こえてきた。
「……ま、タオル貸してくれたことに関しては借り1つだから、何かあったら1回ぐらいは助けてやるよ」
その前に死んだら話になんねーけどな、と蘭丸は俺に顔を向けることなく歩みを進めた。
残された俺は、ただ今しがた言われた言葉を脳内で反復していた。
『お飾りみたいな偽善』
ドキリとした。
実際、それは図星だったからだ。
俺は人当りが良く、人間関係に困ったこともない。
平凡な日々を安全に過ごす人間だ。
人並みに共感して、人並みに話を合わせて。
心配しているように見せかけて、そこまで心配していない自分。
それをバレないようにしながら、流すように人生を歩んできた。
イイ人を演じることに関しては、それなりに上手くできていた。
「お飾りみたいな偽善……か」
会って間もない年下の男の子に言われるなんて、何とも言えない虚しさがある。
「……そんなこと、ないと思います」
「!?」
「あ、驚かせてごめんなさい!」
自分の世界にどっぷり浸っていたから、急に背後から声をかけられて俺の肩は面白いぐらいに跳ねた。
振り返ると、そこには見た目20代後半だと思われる女性が立っていた。
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