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「失礼ですが…逢坂さんはいくつですか?」
史郎さんが全員いるか人数を数えている中、俺は逢坂さんに話しかけた。
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ」
逢坂さんは少し怒ったように眉を上げる。
「ですよね…すみません」
しかし俺が謝ると、すぐにその表情は崩れた。
「なんて、冗談です。私は27歳です」
あ、やっぱりそのぐらいの年齢か…
「何故年齢が気になるんですか?」
「いや…見た目がとても若いのに、何だか母親のような寛大さを感じたので……本当はいくつなのかなって思って」
すると逢坂さんは、一気に顔を曇らせた。
「母親のように、ですか…」
何か想いを巡らせているのか、少し俯いて地面を見ている。
何だかそれが、俺には泣いているように見えた。
「すみません。あまりいい話題ではなかったみたいですね」
ここに連れて来られている人は、どんなことがトラウマに触れるか分からない。
俺の不用心な一言が、傷つけたりいやな過去を思い出させることだってある。
すると逢坂さんは、いいえと首を横に振った。
「いつまでも引きずっている私も私で……もう1年にもなるのに」
「…………」
「久我くん、私の話…聞いてもらってもいいですか?」
「え?俺が?……っていうか、俺に話してもいいんですか?」
恐らくその話は、逢坂さんにとって決して明るい話ではないだろう。
もしかしたら、ここに来る理由…生きることへの気力を失うに至ったエピソードかもしれない。
そんな重要は話を、会って間もない俺なんかに…
逢坂さんはこちらを見て、首を縦に振った。
揺るがない決意の目だった。
そのとき、「じゃあ全員いるし、出発するぞ」と史郎さんの声が聞こえて来た。
「あ…じゃあ、歩きながらでも…。俺なんかでよければ…」
「はい。お願いします」
逢坂さんは深々と頭を下げた。
「私は、24歳で結婚しました。主人は大学時代から付き合っている人で…」
なんと、既婚者だったのか…。俺はまずそこに驚いた。
っていうか、早いな。
「そして、25歳で妊娠して…男の子を出産したんです」
さらに子持ちだったのか…。
これだけ聞くと、幸せそのもののように感じる。
「本当に嬉しくて嬉しくて…付き合ってる頃から2人で、いつも子供が欲しいねって話をしていたので…。でも、そんな日々も長くは続かなくて」
逢坂さんは目を覆った。
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