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「えええ!?な、何ですかこれ!!」
頭の中で状況を整理したあと、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「あなた…一体どういう神経してんの……」
女性は呆れたようにため息をついて、窓の外に広がる奇怪な光景に視線を移す。
「みんな、これがどういう事態なのか分からないから混乱してるの」
「分からないって……」
「だって私も、他のみんなも…眠っていたんだから」
「え…っ!?」
みんな眠っていた?俺と同じように?
それはおかしい。バスで寝る人はいくらでもいるが、乗客全員が寝てしまうなんて。
「私が目を覚ましたときね、何人かは起きてたの。でもその人たちもみんな、今起きたところだって言ってて」
その数人以外は全員、熟睡状態だったそうだ。
女性はバスの外の異常事態に気づき、慌てて乗客を起こしていったのだという。
そして最後に俺を起こしにきた…というわけだ。
「それなのに、あなた全然起きないんだもん」
「あはは…」
何だか、長い夢を見ていた気がする。
それが何なのか、上手く思い出せないけど。
「変だと思ったのよね…。バスに乗った途端、いきなり睡魔に襲われて。抗う暇もなくグッスリ」
「え、そうなんですか?」
「え?あなたは眠くならなかったの?」
あんなに眠っていたのに?と女性に言われ、俺は首を捻る。
その辺の記憶が曖昧なんだよな。
バスに乗ったような気がするが、上手く思い出せない。
ただ、いつも登下校はバスを使っていたので乗っていても不思議ではないことは分かる。
自分の不可解な記憶と行動に頭を悩ませていたところで、そのときは唐突に訪れた。
この異質な環境に置かれていても、現実味を帯びていないこの状況にどこか心の奥では夢なんじゃないかと思っていた。
そんな楽観的な考えは、見当違いだったのだと。
俺は思い知らされることになる。
『―――――ご乗車、ありがとうございます』
「「……!?」」
バスの中に響き渡る、無機質な声。
人間の声とも取れぬ、機械的なもの。
俺は驚いて声の主を探した。
そういえば、と運転席を見に行く。
一番前に座っていた俺は、誰よりも早く運転席の場所へと行った。
このおかしなバスを運転している人なら、何か知っているかもしれない。
そう思った。
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