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「ひいい!?な…、何か喋った……!」
「落ち着いてられるかよ…っ!」
「そ、そうよ!そもそもあんたは誰なの…!?」
「どこから話してんだ!出て来い!!」
より一層混乱を極める状態だったが、声の主は「落ち着いて」と繰り返した。
『混乱する気持ちも分かりますが…まずは大人しく話を聞いてください』
しかしバスの中に静かな時間など訪れることはなく、どこからか響いてくる声も喧騒の渦に飲み込まれる。
『まずは、席について下さい』
「はあ!?こんなときに悠長に座ってられるかよ!ふざけんなテメェ!!」
大きな声を上げたのは、学生の制服を着た男子だった。
見るからにヤンキーそのもので、金髪に装飾品をジャラジャラと付けている彼の怒鳴り声は迫力があった。
その声に押され、乗客たちもブーイングの嵐を起こす。
事はこのまま、ただ煩い状態が続くのかと思われた。
しかし。
初めての感覚に、自分の身に何が起こっているのか最初は分からなかった。
「………っ!!?」
「きゃあ!?」
「うわあ!!!!」
一斉にふわり、と乗客全員の体が浮き上がる。
そして俺たちは、見えない何かの力によって無理矢理席に座らされた。
ドスン、とシートに落とされ、苦痛に顔を歪める暇もなく勝手にベルトが腰に巻きつく。
「な…っ、なんだよこれ!」
「外せ!!」
四方八方から焦ったような声が上がり、みんなも同じような状況なのだということが分かる。
「くそ…っ」
俺も急いでベルトを外そうとしたが、何故か動かない。
「な…んで外れねーんだ…!」
舌打ちをしながら力を入れるが、やはりベルトが外れることはなかった。
「………どうやら、拘束されてしまったようだ」
俺がベルトと奮闘していると、隣から落ち着いた声が聞こえてきた。
その声に顔を上げて隣を見ると、そこには学ラン姿で眼鏡をかけた男子学生が座っていた。
「こ、拘束って……」
「見れば分かるでしょう。人間を見えない力で席に座らせベルトに括りつける。僕たちの力ではどうにもならないということです。どんなに暴れても僕たちはこのバスに…逆らえないんですよ」
あくまでも淡々と語る男子学生は、ふうと息を吐き出して窓の外を見る。
「とんだ災難に…巻き込まれてしまったな」
ギャーギャーと喚き、煩いこのバスの中で。
ここだけは、信じられないほどに静かだった。
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