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「本日、新入時寮から第4学寮に編入させて頂くことになりました!倉田と申します!!!よろしくお願いします!!」
思いっきり大声で言ってやった。
案の定教官は少しビックリしたのか、きょとんとしている。
「それだけか?」
「えっ…」
予想外な事態に言葉が詰まる。
あの、歪んだ口がピクリと動いた。
「もうちょっと、この中間期ではこういうことを頑張ります!とかそんなんはないんかって聞いてんねん。」
そんなこと言われたって…
「あ、いや、中間期では…かっ家族との…関係…を
予想外なことが起きた驚きと教官に対する苛立ちで言葉が出ない。
餌を求める鯉のように口がパクパクと動く。
溺れそうだ。
周りには沢山の先輩寮生がいる。
その先輩たちも俺には全く無関心だ。
こいつらも同類か…。
全員殴ってやりたい。
今すぐに。
「ぉぃ……ぉぃ?……おい!!」
遠退いていく意識を無理矢理引きずり戻された。
「何をボーっとしてんねん!お前ホンマに更正しよって気はあるんか?いつまで経ってもクズのままやぞ?
まっ仕方ないか!何も考えずに1ヶ月半も過ごしたんやからもう手遅れやわな!」
よし、殴ろう!
こいつを思いっきりぶん殴ってやろう!
そう決心した。
その瞬間、自分が泣いていることに気が付いた。
クズと言われ
手遅れと言われ
訳のわからないまま怒鳴られ続け
本気で殴ってやる気だった。
だが、殴ってしまうと…
進級も遅れてしまう。
法律に守られた絶対的権力に抑え込まれた。
こんなところじゃなかったら…
こんなやつどうにだって出来るのに。
殴りたい。
キレたい。
殴っちゃいけない。
1年我慢するしかない。
一瞬にして頭の中は葛藤に埋め尽くされ、飲み込まれていく。
その大きな渦から抜け出す術を俺は知らなかった。
飲み込まれ、溺れて、苦しくて苦しくて、涙が流れた。
「よし。もうええわ。」
そう言って教官は初めて笑顔を見せた。
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