第一章

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「…………」 誰も座ることはないだろうと思っていた隣の席に一人の人影が降りた。 一瞬、彼女ではないかと目を疑ったが、それは全くの別物だった。黒い帽子に黒いコートの全身闇に染まった人物が隣に座った。 男か女なのかは不明だが、はっきりとわかったのは、それが不気味で歪なものだということだ。   俺は逃げるようにしてその場を去ろうと、立ち上がったら隣の人物が声を発した。 「貴様は残されたものだ」 男か女かわからないその低い声は、俺の耳に深く残った。 しかし、それは俺に向けられて発した言葉なのかはわからなかったが辺りに人影は俺と隣にいた人物以外見当たらなかった。 「貴様は残されたものだ」 同じことをもう一度言われた。 「残されたものって俺のことですか?」 「……そうだ」 何故見ず知らずの人間にそんなことを言われなければならないのか分からなかった。 「貴様が何故残されたのかわかるか?貴様は何も出来なかった。だから取り残されたのだ…しかし貴様は本当にそれでいいのか。何もできなかったからこそ今何かできるのではないか」 反論することは出来なかった。いや反論する気も無かったのかもしれない。しかしそれは俺の心に深く突き刺さった。 「……」 「貴様はどうしたいのかよく考えることだ…」 そう言うと、黒い者は何処かへと消えていった。気配もなくどことなく消えていった。 只そこには黒い便箋が折られて置いてあったのだ。 俺はその不気味な便箋の中身を見ることを少し躊躇ったが男の言葉が気になり封を切った。 封を切ると中にはまた真っ黒な紙が二つ折にされて添えられていた。 開いてみると黒紙に対して白字で文字が書かれていた。
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