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十二月も半ばに近い夜の空気は、肺が痛いほど冷たかった。
それとは裏腹に、彼のいる東京のとある繁華街はクリスマスムード真っ只中だった。すれ違う人々のほとんどがカップルばっかりで皆が皆、幸せな顔をしていた。
しかし、彼の隣には誰もいない。勿論誰かを待っているわけでもなく、彼はクリスマスツリーの側のベンチに腰を落として、一人寂しく下を向いていた。
何かをするわけでもなく、俺はただただ座って下を向いていた。すれ違う人々はカップルばっかりだったため、俺なんかには目もくれずに歩いていく。
時には視線を感じるが、それはここに居るには場違いな俺に対する怪訝の目であった。
勿論、目的もなく俺はここに座っているわけではない。
ただ俺は人を待っているのだ。
何時間ここにいるだろうか。夜も老けてきて、辺りには人はほとんどいなくなってきた。
しかし、いくら待っても誰も俺の隣の椅子には座ってくれない。
「…………」
もしかしたら、来てくれるかもしれないという淡い期待はあったが、やはり彼女は来てくれない。
当然といえば当然だ…、俺の待ち人はもうこの世にはいないのだから。
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