第1話

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「皆で写真を撮ろう」  家族皆で居間に勢揃いし、ぞろ食事を始めんとするその時に、父様(ととさま)が徐に周囲を見回して言いました。  いの一番に「何故?」と私は首を傾げてみせます。  ……本当は、その理由なんて分かりきっているというのに、私はわざと無知な風を装って、殊更幼く舌足らずな声色を使っていました。  父様は笑って言うのです。 「写真さえあれば、父様が外つ国(とつくに)に行っても寂しくあるまい?」  ……本当は、父様が寂しいだけの癖に。 *******************  一昨日でしたでしょうか、見たことも無いおじ様が、「家長殿はご在宅か?」と偉く尊大な態度で我が家の敷居を跨ぎました。  父様は、この地域では珍しい、学者という職に就いており、何が楽しいのやら古めかしい書物やら何やらと毎日どこかの研究所で睨めっこをしている人でありました。  ですので、家には長女である私を始め、兄弟姉妹たちしかおりませんでした。母様(かかさま)は一番下の弟を産むと同時に体調を崩し、帰らぬ人になっていたので、実質、父の出かけている今は、私が家長の代理ということになります。 「父は只今出払っております。私で宜しければ承りましょう」 そう言って勝手口を出て玄関へ続く廊下を進むと、おじ様は「これを家長殿に手渡すの由、宜しく」と軽く一礼をしてみせ、私に大きな封筒を差し出しました。あまりにも大きいので、私の手で持つには大変そうです。  ……何かしら。  そう思いながらそれをおずおずと受け取りました。  おじ様は「押印をお願いしたい」と、私の手の隙間から元気良くはみ出る封筒をびりりと破り、その中から真白い紙を一つ取り出して見せました。おじ様の手につままれて、白い紙がぴらぴらと音を立てて宙を舞います。 「少々お待ちくださいね」  そう言って、私はとても大きい封筒を脇の下に挟み込みました。  私がしっかりと小脇に抱えるのを見届けると、おじ様はつまらなそうに私から視線を反らします。ぷい、と音が聞こえそうな程のその姿に、 「まぁ、このおじ様は随分子どもっぽいお方なのね」 と目を思わず丸くしてしまいました。  きっと立派なお仕事に就かれている方なのでしょうけれど、それにしたって小娘に対するにも必要最低限の礼儀というものがあるのではないでしょうか。
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