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「やぁね、父様。自分の分のお写真しか勘定してないんでしょう」
外面ではくすりと笑って、でも心では密やかに泣きながら、私は父様の頬を指で突付きました。
このご時世、父親というものはとても重々しい存在で、威厳のある風体であるのが一般的でありましたが、私の父様はとてもとても心根の優しい、悪く言えば気弱な人でした。なので私が頬を突付くという無礼を働いても、「何をする!」などと声を荒げることもありませんし、逆上して私の頬を引っぱたいたりすることもありません。ただただ困ったように儚げに微笑んでみせるだけの、迷子の少年みたいに頼りなく、そして愛しい人でした。
「父様の分と、私達の分。全部で6枚。……そうでしょ、父様?」
私の言葉に、父様は「うん、うん」と、一言一言を聞き漏らすまいとしっかと聞き入るかのように丁寧に首を振りました。
「そうだな、そうだったな」
かたかたと震える言葉は、父様の心に溜まった涙の表れだったに違いありません。ええ、そうですとも。
それに気付かぬふりをして、私はただゆっくりと唇で孤を形作りました。
見果てぬ地で一人逝くことになる父様が、寂しさを抱えながら思い出す時の私の表情が、少しでも幸せなものであって欲しいと思うから。
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