遥子の渇き

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年末休みに慌しく引越しを済ませ、新年は東京で迎えた。 双方の実家へ新年の挨拶にも出向き、久しぶりに夫婦らしく一緒に行動した。 しかし、穏やかな幸福感は長くは続かない。 正月休みが終わって夫は出社し始めた途端、再び私には無関心となった。 帰宅は遅く、帰ってくればすぐ入浴して眠ってしまう夫。 夕食も外で済ませることが多い夫とは、会話らしい会話もない。 「俺は眠りが浅くて一人じゃないと熟睡できない」 そんなことまで言われ、寝室も別々。 夫婦とは名ばかりで、私たちの実態はただの同居だった。 そして私は情事を止めることができなかった。 ――誰かお願い。私を強く欲して! 「遥子が好きだ」 「俺には遥子しかいない」 「遥子、ずっと愛してる」 「遥子とは絶対に離れたくない」 女として男からそう思われることを、心の底から願っていたのだ。
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