沙織の葛藤

10/18
前へ
/28ページ
次へ
冷淡で不誠実な夫など、遥子の方から捨てて欲しかったのかもしれない。 私自身は孝一以外の男性と恋をする気も遊ぶ気もなかった。 そう思えるのは、きっと明確な目標があるから。 私は改めて深く感謝する気持ちになった。 まだ叶ってはいないけれど、夢や目標があることに。 夢を叶える可能性や目指せる環境があることに。 「本気の恋なんて、そんな簡単に見つからないわよ」 遥子は自嘲気味に笑いながら言葉を続ける。 「私の男漁りだって、本当はちゃんとした愛を求めてたんだもの」 「……」 「だけど誰も私なんか愛してくれなかった」 言い終えた遥子は煽るように水割りを飲む。 私は思わず口走っていた。 「遥子……私の知り合いと会ってみない?」 深く考えもせず、つい出てしまった言葉だった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

259人が本棚に入れています
本棚に追加